唾を付ける呪詛

自分のものにするということを「唾を付ける」といいますが、「つば」には未だ解明されていない情報がいくつも含まれているというのを聞いたことはありませんか?

くしゃみや咳による唾液の飛沫により、ウイルスが運ばれ、感染が拡大するということは、コロナウイルスでも取り上げられ、わたしたちの身近に知ることとなりました。

このように「つば」には、細菌やウイルスが含まれることから、汚いもの、忌み嫌われるもの、穢れたもの、として知られるようになったのは、なにも今始まったことではありません。

日本人にとって「つば」は穢れたもの

フォークとナイフを使って食事をする欧米人は、皆同じ食器を使いまわしています。

しかし、日本ではどうでしょうか。

日本人は、箸や茶碗、湯呑など口をつけるものは、特定の所有者が使うよう、別けられていることが多いのではないでしょうか。

お父さんが使った箸を洗って、次の日に娘が使うなんてことはありません。

逆に口をつけない大皿や醤油皿などの小皿は、家族皆、同じものを使い回すという習慣があるように思います。

つばと同様に体液にも同じことが言えます。

お父さんのパンツを洗濯して息子が履きませんよね。

このように日本人は、たとえ家族であっても他人の唾液や体液を嫌うことで、ウイルスや細菌による感染症の拡散は欧米に比べて小規模なのかもしれません。

唾を付ける

昔から手付金や予約のことを「唾を付ける」といいます。

食べ残したおにぎりのように、だれかが「唾」をつけたものを食べますか?

「唾」というのは、穢れと同等のものと考えられ、唾を付けたものはだれも食いません。

この唾を付けるという忌み嫌われる行為は、ある種の呪いのように「だれも食わない」、つまりは「唾を付けるたものは自分のものになる」という呪詛がかけられているとも考えられています。

これがいつからか「その唾を付けた者の心霊がつく」と言われるようになったのでしょう。

こういったことを踏まえて考えると手付や予約のことを「唾を付ける」という意味がわかるような気がします。

眉唾(眉に唾をつける)

これは騙されないように用心することのたとえで用いられる言葉です。

もともと、狐や狸に化かされないように「眉に唾をつける」という古い言い伝えです。

岡山県児島地方の伝承では「狐に眉毛の本数を数えられたら騙される」と言われていたというのです。

だから、狐に正確な本数をわからないようにするために眉に唾をつけたとされていますが、どうでしょうか。

眉が濡れて本数がわからないなら、水でもいいはずです。

あえて唾としているのは、やはり唾は穢れたもの、だから「数えられない」ではなく「唾に濡れた眉なんて数えたくない」ということなのかもしれませんね。

「だれも食わない」と同じように狐が数えたくならないような嫌がらせと考えると、やはり呪詛に思えてなりません。

愛する者にしか許してはならない

唾には、ウイルスや細菌だけでなく、DNAの情報が詰まっているということはわたしたちもよく耳にすることです。

サスペンスドラマなどを見ていると「現場に落ちていたタバコの吸い殻に付着した唾液のDNA鑑定により犯人を特定できた」なんていう話もありますね。

これら以外にも唾には、様々な情報が詰まっているとも言われています。

あえて唾を嫌わず、情報交換の方法として利用していると考えられていることがあります。

身近で言えば「キス」、接吻です。

異性とだけでなく愛するペットとキスすることもありますよね。

我が子とだってキスしますし、子供の食べ残しだと食べれたりします。

キスしただけで、この異性と「合う」か「合わない」か、なんとなくピンときたことはありませんか?

実は唾液には、直感的に相手を理解することができる情報が含まれていると考える研究者もいるようです。

これは、まだ研究途中のようで、明らかにはなっていませんが、唾を交換するのは、「愛するもの」に対してだけというのも何かうなずけるような気もしますね。

心が通じ合わないとキスをしたくありませんし、心は惹かれていても初めてのキスには相当な勇気が必要です。

もしかしたら「唾を付ける」ことと同様に、愛する人を独り占めするために呪詛をかけ「他人はだれも食わない」ようにしているのかもしれません。

とはいえ、全てのものが自分のものにはなりませんし、悪い情報(ウイルスや細菌)なども含まれているので必ず「本当に愛するもの」とだけ唾を交換するようにしましょうね。

意図的にくしゃみなどの飛沫を撒き散らすと、それこそ呪いですから。

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